





2025年9月24日(水)に、第4回サイエンス・コモンズ セミナーを中央キャンパス公江記念館(KM館)3階ゲストラウンジにて開催いたしました。本セミナーは対面形式で実施され、教職員や大学院生、学部生を含む23名の多様な参加者が集いました。
サイエンス・コモンズセミナーは、本学が誇る第一線の研究者が、多様な研究テーマを学内外に広く発信する場です。参加者の皆様に、本学の研究に触れることで新たな学びを得ていただき、分野を超えた研究交流や連携の機会を創出することを目指しています。
今回は、教育総合研究所の所長である志水宏吉教授にご登壇いただき、「親ガチャ時代にできること-公教育のいま」と題したご講演をいただきました。志水先生は、ご専門は教育社会学で、学校文化、フィールドワーク、マイノリティをキーワードに、現場の教育に関する研究を続けられています。
志水先生はまず、現代社会でいう「親ガチャ」の世界、すなわちペアレントクラシー(Parentocracy)について解説されました。社会は歴史的に、身分や家柄で人生が決まるアリストクラシー(貴族社会)から、個人の能力と努力で人生を切り拓くメリトクラシー(業績社会)へと移行し、現在は家庭の「富」と親の「願望」が子どもの人生を大きく規定するペアレントクラシーに突入していると指摘されました。
ここでいう家庭の「富」は、お金や財産といった経済資本だけでなく、文化的な価値観を指す文化資本、そして人間関係のつながりである社会関係資本の3つを含み、これらが子どもの学力や人生に大きな影響を及ぼしていると説明されました。
志水先生は、学校教育の役割は、子どもたちに「たしかな学力」(=認知能力)と「豊かな社会性」(=非認知能力)を身につけてもらうことではないかと話され、子どもたちの学力をどう捉えるかについて、志水先生が提唱する「学力の木」モデルが提示されました。学力は、知識・技能(葉っぱ)、思考力・判断力・表現力(幹)、そして意欲・関心・態度や人間性(根っこ)の3つの要素から構成されます。特に社会的に不利な環境にある子どもたちは、「根っこ」の部分が十分に育っていないことが多いため、この土台となる部分を育むことが重要であると強調されました。「根っこ」を育むためには、家庭・地域・学校で豊かな人間関係(つながり)があることが「よい土壌」となるとまとめられました。
さらに、教育における視点として、学力向上はすべての子どもに均等に働きかける「平等」の観点であるのに対し、学力保障は、教育的に不利な立場にある「しんどい層」に応じてケアや支援の分量を重点的に調整し働きかける「公正」の観点であると話されました。関西の教育現場は、長年この「学力保障」の考え方を大事にしてきた歴史についても触れられました。
最後に志水先生は、学校の役割は、たしかな学力と豊かな人間性を獲得してもらうことであり、「好きな人と好きなことができるようにすること、すなわち子どもたちを幸せにすることである」と結ばれ、講演は盛況のうちに閉会いたしました。
【参加者の声】
- 平等と公正について、学校現場での出来事を当てはめて考えると、公正の必要性を強く感じます。その理解に時間がかかることもよくわかります。先生のお話にあったように、子どもたち一人一人が幸せに過ごせるように、手助けしたいと思います。
- 貴重なセミナーをありがとうございました。私は日頃、部活動の部長として、指導する中で色々と頭抱えることが多くあります。先生が「木」で表現されていたように、葉っぱを輝かしく生かすためには、幹の部分や根っこは非常に重要です。部活動指導も一緒だと感じながら聞いていました。
- 「親」の立場で拝聴いたしました。大変貴重なお話をありがとうございました。教育・子育てにおける場面場面の決断の主体は自分ですが、決断をするために、さまざまな知識と知恵を持っておく重要性を感じました。
\第5回サイエンス・コモンズ セミナーのご案内/
日時 | 2025年10月29日(水)15:00~17:00 |
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場所 | 中央キャンパス 公江記念館(KM館)3階 ゲストランウンジ |
詳細 | https://scommons.mukogawa-u.ac.jp/news/2025/07/30/post_2119/ |